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医・歯二元論と制度のあり方を考える 

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都 温彦
(福岡大学名誉教授・前医学部歯科口腔外科教授)

アメリカ合衆国における近代歯科学の歴史

3.アメリカに始まった医歯二元論制度の現況


 現在,アメリカの歯科医師にはDDSかDMDか,いずれかの称号が与えられている.この両者の称号は調和的に受け入れられている.そして現在の歯学部の理念はHealth Scienceとしての名のもとに置かれている.しかしながら部外者からみた歯科臨床の雰囲気は健康科学としての保護的優しさや明るさよりも機械製造業的あるいは無機的そして怖い所という印象を与えているのではないかと思われる.このようなことは歯科学の本質ではなく,歯科治療処置や方法がSurgicalであり,Mechanicalである場合が多いからである.残念ながら歯科治療の処置,方法が歯科学臨床の本質のように世間的に誤って受け取られているところがある.
 臨床医学としての歯科学の本質は,先ず患者の悩みとなっている歯や口腔,顎の身体的,心理的障害を理解することであり,診断することである.次に自覚的,他覚的障害の原因である器質的病変や心理的社会的要因,全身的障害などの改善を図ることである.同時に歯や口腔,顎などの局所的障害によって何らかの不利な影響を受けていた心身面の健康が改善されることである.そして患者の健康面におけるニーズや不安,苦痛に応えることが健康科学であると考えられる.
 現代の歯科学臨床は,患者の歯を診て,考えることよりも先に治療的な手あてや技術が働くという古典的な臨床の時代ではなくなっている.
 アメリカにおいては,日本にみられるような医科と歯科との組織構造的対立や職業的身分差ほとんどないように思われる.これにはアメリカのDental Schoolが1867年に名門大学として知られるハーバード大学に創設され,そしてペンシルべニア大学の歯学部にならい次々と総合大学の歯学部が設立されてゆくことになり,医科と歯科との学歴的身分差がなくなったことがあげられよう.またアメリカにおける医療費は私費であり,個人の費用は民間保険制度によって支払われる.補綴治療の場合,歯学部学生が作製した金属冠は425$,歯科医は800$,補綴専門医は1000$であるといわれる.そこで専門医資格を得て御得意の金持ちの患者を持つと裕福な歯科医になることが出来る.
 医療の場合の一般的相場については,腸の手術は5万$,約500万円強であり,1日,1泊の入院費だけで30万円かかるということであった.盲腸の手術は100万円位が請求される.また現金で支払うことになるとhome doctorを通して値段交渉が行われ,いくらか値段が安くなった,という話も聞かれた.
 ある人が風邪を引いたので保険なしの自由診療の受診を行ったところ問診だけで3万円の請求があったという.
 アメリカは税金を払い合法的に住んでいる人では65歳以上になると医療費の70%を国が負担してくれる.そして30%が自己負担となるが,この30%をカバーしてくれる保険もある.65歳以下の人は100%私費負担であるので, 20%前後の人達が医療の民間保険に加入していないといわれる.とくに低賃金で雇われる人達には保険加入できない状況がある.ちなみに医療の民間保険料は月に10万円程度であるといわれる.アメリカは65歳になれば医療費の負担は楽になるという.
しかし歯科だけは医療とは異なる制度になっており,民間保険だけであるという.その点,日本の国民は皆保険制度になっており,先進医療についても,皆保険制度のもとにとり入れられる機会がある.
 このように両国の医療制度には違いがあり,それによって,本来共通すべき歯科学の進歩において違いが認められる.この他,ヨーロッパに誕生した近代歯科学が医師や医学に関連する人達によるものであったという歴史的認識もあったと思われる.我が国においても欧米の文明開化による教育制度の改革が施行される明治維新以前では,歯や口腔に関する学歴や身分や学問的な差はなかった.江戸前期の儒学者であり教育家,医者であった貝原益軒は「養生訓」や「日本歳時記」の中で,人間の健康生活における歯の重要性を謳っている.
 現在のアメリカの総合大学の歯学部は医学の一分科としての歯科学講座が分離,独立した形態で存在していると考えられる.このようなことから歯学部あるいは歯科医学校だけが独立的に存在しているところはなく,医学部と共に歯学部は存在しているというのが,アメリカの医学教育事情に詳しい人の話であった.したがって通算8年の制度であるアメリカの医学部と歯学部では,学部進学前に4年間の単科大学あるいは総合大学で教育を受けてBachelor of ArtsかBachelor Scienceの称号を得て医療者としての人間的,社会的教養と人間性を身につけることが求められている.このようなことは医師と歯科医師について同様に求められる医療者としての素養であると考えられる.
 かつて我が国の歯科医師養成の教育制度はこの分離,独立した歯科医学校,歯学部の表面的な制度の姿をみて医学と歯学とは異なるものであるという誤解と偏見をいだいたのではないかと思われる.

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