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医歯二元論と制度のあり方を考える 

07.4月号

国民医療法と医・歯一元論 ―その2

前号に引き続き『国民医療法と医・歯一元論』(昭和17年刊)の冊子内容を紹介することにする.
「 」内は冊子の文章の抜粋,要約である.
都 温彦
(福岡大学名誉教授・前医学部歯科口腔外科学教授)


「今日の医療制度において歯科医に実施を許されていない範囲の講義は,授けられてはいるものの聴講する側の興味を喚起するには至っていない.かえって無益な精神的負担を課すに過ぎない結果となっている.
 歯科医師をこのような悲境から救う途は,人体の全体を基礎とする医・歯を一元にした日本歯科学を樹立して不自然な現在の歯科医師制度に適正な活力を添えることである.そして国策である国民医療法の理念に一層接近させるために医・歯一元体制の強化を図る方がよい.そのために歯科医療者は歯科專門医師として養成されるべきである.
 歯科医療は一般医療とは異なり,類例のない技術(技工)的要素を必要としている.そして現在の医学は人を医することを目的として体系化された学問になっている.歯科医学の中で技術的要素の基礎をなす理工学が医学の圏外にあるものとして放置されるべきではない.歯科医学に必要な理工学は医学的理念のもとに消化し盡して医学的要素化して医学体系の中に吸收されなければならない.
 歯科医学は医学と無関係な技術的要素を含むが故に,医学とは別個の存在であると主張する者もいるかも知れないが,それは人を医すための医学を理解し得ないことを告白しているに過ぎない」と述べている.
 以上,今から60数年も前に述べられた医・歯一元化に関連する理工学の例は,現代の医療では循環器病の治療における人工心肺・人工臓器・組織や整形外科領域におけるインプラントなど,各科領域においても色々な多くの人工材料が使われてくるようになり,かつての歯科の類例のない特殊性は"特殊"ではなくなった.現代の学際的医学の進歩は歯科を医科と分離しなければならないという理由を失っている.
 次に述べられている内容も同様である.
「今,医界においては医学の刷新が企てられている.これまでの医学は理化学に偏重し,ややもすれば人体を唯物的に取り扱う傾向を示して,人を医すための医学に相反する方向に進みつつあるという弊害が認識されている.これらの是正が強調されて物心両面にわたる医学の一元的新体制が樹立されようとしている.また歯科界は医・歯の二元的偏見や対立的意識を捨てて医・歯の一元融合を図るべきである」と述べている.
 このような認識は現代の歯科が歯や口腔,顎顔面だけの診断や治療に止まらず,患者の全身面や心理社会的側面,倫理面,ニーズなどを考慮して全人的,総合的に対応しようとする思想と共通していることに驚かされる.
 次に著者は,「今までの歯科医学制度の下では真の歯科医学の確立は不充分である.それは,法的に認められた歯科医術に一致しない不確定な学問によって曖昧模糊とした不安の絶えない歯科医術を日常行っているからである.そこに正しい歯科医道の成立はなり難い.例えば急性歯性炎症は病勢の赴くところ予断を許さない.歯科医師に許された不明瞭な治療範囲の境界とは無頓着に病勢は自由自在に進展するのである.このような患者に対して良心的歯科医師は診療に臨み,法の制裁を考え,躊躇するのである.歯科医療として施されねばならぬ場合に,自から充分なる知識と技術とを有していても歯科医師なるが故に拱手(手を組んで何もせずにいること)傍観せざるを得ない場合がある.
 医・歯一元論の提唱は,この桎梏(しっこく;手かせ足かせをはめること)から逃れんとする切実な叫びでもある.歯科は医科とは違い,治外法権的な特殊な業域を形成して恥かしくは思わないのであろうか.アメリカ歯科制度の亜流のような医・歯二元論は,これを一刻も長く保ち続けようとする旧体制の思想であろう.歯科界を明朗強化し,国民の体力を向上するには,先ず医・歯一元化を実現し,歯科医療者は歯科專門医として育成されることである」という趣旨で,医・歯一元化の理由が述べられている.
 そして,「この一元化運動の使命が赴くところには対立的存在の是正が必ず要求されることになろう.また他面では医学教育機関の膨大な拡張に帰結することにもなろう.兎に角,国民医療法の包蔵する妙味を遺憾なく運用するならば,結局歯科医師は今日の桎梏から脱して医人として真に仁者たりうる途が開かれ,全歯科界が飛躍的に向上することに何人も疑う余地はない.吾が歯科医学専門学校同窓連合会が結集力をもって医・歯一元化達成に奮起するのは正に此の秋である」と述べて結んでいる.
 以上,冊子の著者は,医・師一元化を主張する根拠を,医・歯二元制における現状の矛盾,問題点を解決するために国民医療法の発令と関連させながら述べている.
 それから60数年を経た現在,歯科医学の教育カリキュラム内容の発展的改正,教育方法や歯科医学の学際的研究の発展,大学院大学の発足,そして医療面においては各科との医療連携,他科との患者情報の交流など,より全人的立場から歯科患者の診療が行われるシステムが採用されつつある.すなわち歯科医学・医療に必要な医学が歯科医学の中において二元的に作られることによって,先人が訴えてきたような医・歯一元論的姿が以前よりもみられるようになっている.
 しかし医師法と歯科医師法による桎梏は従来どおり,なお存在している.そして診療範囲に関する明確な法的定義や,全身面における種々な臨床的教育の研修・修練の場についてもまた手付かずで,曖昧なところがある.現代の歯科についても先人が提起・指摘した基本的医・歯二元的制度の問題や,医・歯一元化的課題が多く残されている.



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